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運動靴と赤い金魚

運動靴と赤い金魚
CHILDREN OF HEAVEN
公開 1999年7月24日(日本)
監督 マジッド・マジディ
脚本 マジッド・マジディ
出演者 アミル・ナージ、ミル=ファロク・ハシェミアン


【鑑賞後】評価:★★★★★(映画百選)

僕が映画にハマリ始めた頃に公開された古い映画だ。

何年かに一度、この映画を無性に見たくなる時があって、
今回で4、5回目の鑑賞になる。

そして見るたびに、やっぱり良い映画だと実感する。


ストーリーはとてもシンプルで、
貧しい家庭の兄妹(特に兄)が主人公だ。

お兄ちゃんが、修理に出していた妹の靴を受け取った帰り道で、
その靴をなくしてしまう。
家が貧しいので無くしたからといって、
すぐ買ってもらえるはずが無く、
靴を無くした事が父にばれると怒られるのは必至で、
なくなったことを内緒にして欲しいと妹にお願いするのだ。

妹は靴が無いと学校に行けないから困るし、
兄が「靴が無いならスリッパで行けばいい」なんて
どこかのお姫様のようなことを言うので、
「お父さんに言ってやる!」とキレるのだが、
兄の運動靴を貸してもらえるということと、
まだあまり使っていない鉛筆をもらったことで、
兄の提案に同意する。

そして、二人は一足の靴を交互に履きながら、
迫りくる数々の難関を乗り越えていくのだ。



だいぶ昔に「大統領の乗った飛行機がハイジャックされる」
という内容の映画があった。
スリル満点の作品だったと思うのだが、
この『運動靴と赤い金魚』はスリル二百満点だ。

日常の何気ない描写を丁寧に描いたおかげで、
登場人物の心情がしっかりと伝わり、
二人のかわいらしさも相まって、
「この二人にはつらい想いをしてもらいたくない」という
感情が映画を見ていてあふれてくる。

お兄ちゃんが学校に遅刻して先生に怒られるシーンでは、
事情を説明しに学校に行ってやりたいと思ったくらいだ。

ハイジャック映画は、
「どうせハリウッド映画だから主人公が死ぬわけないし」
「どうせ作り話だし」
といった白けた目で見れるので、どんなにハリソンが危険な目にあっても、
うまく乗り越えられるんでしょ!と安心して見ることができるのだ。


そして邦題が素晴らしい。

原題は訳すと『天国の子供たち』で、
兄妹の死後の話みたいな印象だが、
邦題はまさにこの映画のストーリーで大切な小物を言い当てている。

「運動靴」は兄妹が交互に履いたおにいちゃんの靴。
ストーリーを展開していく上で重要な道具だ。

「赤い金魚」は、ラストシーンで印象的に登場するのだが、
このシーンがあることで映画が締まり、
作品の完成度をさらに一段上に高めた。

またこのラストシーンは妹のため、家族のためにがんばったお兄ちゃんへの
映画監督からの慰めやご褒美のようにも見え、
温かい気持ちで映画を見終わることができるのだ。


失業給付金を受けるために働くことを禁止された僕は、
小さな子供が一生懸命働く様子を見て、
もどかしいような、後ろめたいような、
複雑な心境だったことは言うまでもない。。。


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過去のない男

過去のない男
公開 2003年3月15日(日本)
監督 アキ・カウリスマキ
脚本 アキ・カウリスマキ
出演者 カティ・オウティネン、マルック・ペルトラ


【鑑賞後】評価:★★★★★(映画百選)


引越しをする前に会いたい人がいる。

それは群馬に住んでいる僕の大切な友人だ。

進学のため、誰も知らない東京へ出てきたとき、
同級生の彼が僕の面倒を見てくれた。
お金の使い方が下手で仕送りの一週間前にお金を使い果たしたとき、
彼は自分のバイト代を使って僕に焼肉をおごってくれ、お金を貸してくれたのだ。

彼は何年も東京で浪人をしていて、一人暮らしに慣れており、
年上だったこともあって頼もしかった。

だから最後に挨拶に行きたいというメールをして、
彼からの着信履歴があったから夜中に電話した。


恋愛においても彼は経験豊富で僕の先生のようなところがあったから、
学生時代に限らず、いろいろとアドバイスをもらったのだが、
今回も田舎へ帰るにあたって、僕の中のモヤモヤを解消するために相談したのだ。

僕「どうしても付き合っていた女性の現状を知りたいんです。メールしてもいいでしょうか?」
師匠「は?別れた女にいまさらメールしてどうするんだよ」
僕「なんというか、4年も付き合っていたのに何も言わずに帰るのはちょっと。
 挨拶メールみたいなものを・・・」
師匠「向こうは向こうでよろしくやってるよ。余計なやつが出てっちゃ駄目だろ」
僕「それが・・・、向こうから直接メールとかは無いんですけど、
 知り合い伝いに『心配している』とか、『応援している』とか聞かされて・・・」
師匠「ほっとけよ」
僕「それが、僕の家の近くまで来たみたいなんですよね」
師匠「は?なにしに?」
僕「わかりません・・・ 僕は会ってませんから。でも・・・」
師匠「なに?」
僕「赤ちゃんを抱いていたみたいです。僕のアパートの部屋を見てたみたいです」
師匠「お、お前」
僕「ち、違います!僕の子供ではないです!」

師匠「まあ、彼女にだって情があるさ。長年付き合ったんだからな。
 このあと一生会えなくなるかもしれないからひと目だけ見たいとか、
 そういう感情はあるんじゃないのか」
僕「じゃ、メールしていいですか?」
師匠「しなくていいよ」
僕「じゃ、しますね」
師匠「人の話、聞けよ。もし向こうがシングルマザーとかになっていたとして、
 お前はなにかするつもりなのか?」
僕「い、いえ・・・ もう終わってますから。でも明らかに会いにきてるじゃないですか?」
師匠「バカ、寄りを戻すつもりもないのにいちいち連絡取るな」
僕「向こうが悪いんですよ、僕の視界にチラつくから」
師匠「ほっとけよ!お前はほんとに男にありがちなバカの典型だな。
 別れた女の心配なんてするだけ無駄だ」
僕「はい、そう思います・・・ でも、僕みたいなバカでも先輩に会いに行ってもいいですか?」
師匠「ん?あ、いいよ。でも、忙しいからあまりこっちきても相手できないぞ」
僕「ありがとうございます!」


そんなわけで翌日、僕は彼女にメールを送ったのだが、
「あて先を確認してください」とエラー表示が出た・・・

は・・・? これはメール受信拒否ではないか!?

アッチョンブリケ!

散々こちらの視界にチラついておいて、
いざこちらが連絡を取ろうとすると、拒否かよ、おい!


別れる前に彼女のこういう性格が嫌いで冷めてしまった自分を再確認した。

なんというか、自分のやりたいことはやるけど、
こっちのやりたいことには興味が無いというか、
相手の気持ちを察して行動することができない人間の典型というか、
あらためてガッカリしたのだ。

でも、受信拒否をするということは、
彼女は彼女で、過去に付き合っていた男が出てきてほしく無い生活を送っているということだ。
つまり幸せにやっているのだ。

それがわかれば、僕は彼女に対して知りたいことはもう無い。


そう考えることができて、彼女にもらったマフラーも
一緒に撮った写真も何の気兼ねもなく、捨てることができた。
(詳しくは二日前の記事をお読みください)


ただ、もうこちらの視界にチラつくのはやめて欲しいと思う。

確かに付き合っていた女性の現状を知りたいというのは僕の本心だけど、
その女性の目の前に登場したいと思ったことはない。
僕はちゃんと「興信所を使って」と二日前のブログに書いた。
つまり彼女のことを僕が調べているということを知られたくはないのだ。

知られることで僕が彼女に気持ち悪がられるのはかまわないのだが、
彼女の日常に面倒くさい影響を与えたくないのだ。

そんな風に考えられる僕のほうがよっぽど立派だと思う。

彼女は僕に面倒くさい影響を与えた。



映画の紹介をすっかり忘れていたジャマイカ!

僕はいま生きている映画監督で誰が一番好きかと聞かれたら、
「アキ・カウリスマキ」と答える。

ちょっと言いにくい名前だけど彼の作品が好きだ。


登場人物はどこか無愛想なんだけど愛嬌がある。
そして作品のテーマも面白いのだ。

『過去のない男』では暴漢に襲われて記憶喪失になってしまった男が、
恋をしてしまうお話だ。

自分の過去がなんなのか、名前がなんなのかもわからない。
結婚しているのかもわからないのだけど、
目の前にいる女性に恋をしてしまうのだ。

彼女のために就職しようとするのだけれど、
自分の名前もわからないものだから役所で失業保険受給の手続きもできない。

そして・・・


アキ・カウリスマキ監督の作品は当たりはずれがあるのだけれど、
この監督のユーモアと人間に対する優しいまなざしが僕は好きだ。

小津安二郎監督を敬愛しているだけあって僕と気が合いそうな気がする。


「映画百選」に入れたい『コンタクト・キラー』という作品も撮っている。

この映画は、
人生に失望した男が自殺しようとするのだが、
自殺できずに殺し屋に自分を殺すよう依頼するのだ。
しかし、依頼した後すぐに花売り?の女性に一目ぼれしてしまって死にたくなくなる。
男は殺しの依頼を解約しようとするのだが、
殺し屋がいるはずのバーが取り壊されていて、解約を伝えることができないという話だ。


『過去のない男』に戻るが、この映画は、
「いままで歩んできた詰まらない人生に失望するな。前を向いて歩け!」
という監督のメッセージが込められている。

長年生きてくれば、人間には垢と過去が堆積していく。

しかし、過去に縛られていたのでは前に進むことはできないのだ。

過去ばかり見て生きていくことはできない。


ちなみに、僕の師匠は過去にはまったくこだわらないどころか、
未来に対してもなんの期待もしておらず、
僕から見たら人生に「絶望」しているようにしか見えないから、
「過去も未来もない男」と心の中で思っているのだが、
本人には言えない。



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カサブランカ

カサブランカ
Casablanca
公開 1946年6月20日(日本)
監督 マイケル・カーティス
脚本 ハワード・コッチ、ジュリアス・J・エプスタイン、フィリップ・G・エプスタイン
出演者 ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン


【鑑賞後】評価:★★★★★(映画百選)

いま引越しの準備をしている。

大好きな東京から田舎へ帰る。


収納スペースが多すぎる部屋に住んで10年を超えたせいで、
捨てるゴミが大量にある。
ゴミを捨てるというのは僕にとって意外に難しく、
「残せるものは残してしまえ」と考えていたせいで、
いざ引っ越すことになると捨てるものが多すぎて困ってしまう。


なかでも本を捨てるのは難しい。

「この後も読みたくなるに違いない」という本と、
「今後、絶対に読まない」という本を仕分けするのだが、
部屋に溜まった本の50%は仕分けに悩む。

お金を出して買っただけあって、
なかなか簡単に決断ができない。

どの本も名残惜しい。


本とは別に名残惜しいものがある。


写真だ。

写真はなかなか捨てられない。

たとえ過去に付き合った女性とのツーショットが出てきても、
自分にとって東京で過ごした素敵な思い出のひとつであって、
いま付き合っていないからといって、
簡単にポイポイできないのだ。

女々しいやつだと笑ってもいいけど、
お前だって同じだろ?

男は特にそうなんだと思う。

未練ではなく、なんだろう・・・ 
うまく説明できないけど、自分が本気だった証拠なのだ(?)。



写真だけではない。

過去に付き合っていた女性が編んでくれたマフラーが出てきたのだが、
見つけたときは何も思わずにゴミ袋に捨てることができた。
でもしばらくすると「あれ?捨てていいのかな?」という違和感が徐々に増してきて、
ゴミ袋から取り出してしまったのだ。

終わった恋の落し物は捨てても罪にはならないはずなのに、
あの頃、自分のために丁寧に編んでくれた彼女の姿を思い浮かべると、
簡単に捨てるのがとても難しい。

彼女にはきっとあの頃の気持ちはもうない。
(というか生きてるのか死んでいるのかも今の僕は知らない)

だけど、二人で楽しく過ごした日々の記憶が、
マフラーの繊維の奥の奥にまで染み込んで、
まるでソフランCで洗ったセーターのように
芳香剤の香りが僕の鼻腔を刺激するのだ。

だからまだ捨てられないでいる。

(マフラーのせいで引越しの料金が高くなったら、
あいつに請求してやろう。)


過去の恋はもう終わったのだ。

自分にとって大切な思い出や捨てきれない感情はあるのだけれど、
もう過去には戻れない。
自分の過去におかした失敗はやりなおせないし、
反省点はこの後、付き合う別の女性で挽回するしかないのだ。

そんなやるせない気持ちを抱えたまま、
人間は前に進むしかない。
自分がした決断だから後悔などせずに、
先に歩いていかなければならない。

でもこれがなかなか難しい。


そんなモヤモヤした感情が発生した時にお勧めの映画がこれ!


主人子のボガードは過去の恋愛に素敵な決断で見切りをつけるのだけれど、
こういう決断ができるのが男としてかっこいいのだ。

いつまでもあれやこれや悩んでいるなんて男として本当に駄目だと思う。

男はいざというとき感情に流されることなく、
みんなが幸せになれるよう決断しなくてはならないのだ。

それが「男前」ということである。


マフラーなど捨ててしまえ!

写真など捨ててしまえ!

そう理性ではわかっているのだけど、なかなか、ねぇ・・・

彼女がいま幸せかどうか、
興信所を使ってでも知りたくて仕方ない僕は、
病気でしょうか・・・?


年をとるにつれ、ボガードのように
酸いも甘いもかみ締めた男前になる予定だった僕は、
これじゃあ、ただのオッサンにしかなれないようだ・・・

非常に残念である。



You must remember
this A kiss is just a kiss,
a sigh is just a sigh.
The fundamental things apply
As time goes by. 

And when two lovers woo
They still say, "I love you."
On that you can rely
No matter what the future brings
As time goes by.

Moonlight and love songs
Never out of date.
Hearts full of passion Jealousy and hate.
Woman needs man And man must have his mate
That no one can deny.

It's still the same old story
A fight for love and glory
A case of do or die.

The world will always welcome lovers
As time goes by.

 

これだけは覚えていてほしい

キスはキス、ため息はため息

大切なことは変わりはしない

時が移り流れていくとしても


もし恋人たちが愛し合うなら

やはり「愛している」と囁く

このことは信じていても良い

これから何が起こるとしても


月の光も愛の歌も

決して時代遅れにはならない

情熱もあれば、憎しみもある

女は男を求め、男も女が必要

このことは誰も否定できない


それが昔からの変わらぬ物語

愛に生き闘うか、ただ死ぬか

愛に生きる者こそ祝福される

時が移り流れていくとしても


(和訳引用)http://d.hatena.ne.jp/wineroses/20071216


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ダンサー・イン・ザ・ダーク

ダンサー・イン・ザ・ダーク
Dancer in the Dark
2000年12月23日公開(日本)
監督 ラース・フォン・トリアー
脚本 ラース・フォン・トリアー
出演者 ビョーク、デヴィッド・モース、カトリーヌ・ドヌーヴ


評価:☆☆☆☆☆(映画百選)

何度、見てもすごいと思う映画である。

後味の悪い映画ということもあり、
上演時間も長いということから見ることを避けていたが、
一度見始めたら、途中で止められなくなった。

この映画を見るのは何度目になるのか忘れてしまったが、
はじめから終わりまで隙がなく、目が離せなくなる。

そういえば、初めてこの映画を見たのは、
学生の頃で飲み会に行ったあと、
家に帰ってから暇つぶしに見た時だった。

酔っていたので、途中で寝ちゃうかなと思いながら、
映画を再生したのだが、
どんどん目が覚めてしまった。

この映画はアメリカに移民としてやってきたエルマが主人公なのだが、
彼女は遺伝でどんどん視力が無くなっていくという病気にかかっている。
そもそも、彼女がアメリカに来たのは、
息子も同じ病気にかかっているので、
その手術費を稼ぎ、息子の病気を治すことだった。

視力がどんどん衰えていくけど、働かなくては手術費は稼げないので、
「目が見えない」とまわりに悟られないよう仕事をしている。
つらい現実の中でエルマは空想の世界で自分の心を癒す。

働いている工場の機械の音や、電車の通る音が、
エルマにはリズムのように聞こえ始め、
空想の中でミュージカルが始まる。
それはまるで自分を慰めたり、励ましたりするような歌詞だ。

映画はつらい現実のひとつの逃げ道として、
「空想」を提供するのに優れた道具である。

一方、自分の厳しい「現実」をほかの人に訴えるのにも優れている。

子供の頃はだれでもこんな風に空想の世界に
逃げたことがったのではないだろうか?

「現実」と「空想」のコントラストが美しい映画だ。


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お早よう

お早よう
1959.05.12公開
監督 小津安二郎
脚本 野田高梧、小津安二郎
出演 佐田啓二、久我美子、笠智衆


評価:☆☆☆☆☆(映画百選)

オナラは健康の証である。

世界で一番好きな映画監督は誰かと聞かれたら、
僕は間違いなく「小津安二郎」と答える。

小津の映画を初めて見たのは映画が好きになり始めた高校時代だ。
小津の代表作『東京物語』を近所のツタヤで借りて来て見た。
あまりにも何も起きない映画で、退屈だったのだけど、
映画を見終わった後の余韻がいつまでも続いて、
この映画のどこに余韻の原因があるのか、
いろいろ考えさせられたのを覚えている。

高校時代に一番好きだった映画監督北野武は、
「小津の映画は、早送りで見た」と何かの雑誌で語っており、
やっぱり、みんな展開が遅い映画だと思っているんだと納得してしまった。

パンやズームもほとんど無く、紙芝居のように、
セリフをしゃべる登場人物を交互に固定カメラで撮っているだけだと。

小津が意図的にパンやズームを使わなくなったことや、
演出は視線にいたるまで細かく指示し、
セットの小道具にも本物を求め、こだわったことはあとから知る。

世界中の映画監督が「好きだ」という小津安二郎だが、
黒澤明の「いかにも映画」と言った作品に比べるととても地味で、
現代の日本では名前さえ知らない人のほうが多いように思う。

まあ、それはいいとして、『お早よう』である。

僕はこの映画が小津の作品の中で最高傑作だと思っているんだが、
Wikiで調べてみても、この作品には解説がなく、
あまり人気がないみたいだ。

『東京物語』や『秋刀魚の味』が好きな人にとっては、
作品のテーマが薄っぺらく感じられるのだろうか?

小津自身は、この作品のテーマを「あいさつの大切さ」と語っていて、
「こんにちは」とか「いいお天気ですね」なんて一見意味のない挨拶も
もし、なくなってしまえば、世の中は味気のないものになってしまうよ、
と言っている作品である。

しかし、作品のテーマが浮かび上がるのが映画の中盤くらいで、
前半は「世間はうるさい」といった描写が中心になる。

「婦人会の会費がまだ会長さんに払われてないんですって」
「あら、私たしかに払ったのにどういうことでしょう」
「そういえば、組長さんのおうち、最近、洗濯機買ったでしょ」
「ああ、そういえばそうね。でも、それは・・・」
「わかりませんよぉ、イヒヒ」
なんて、組長本人に聞けば、会費を猫ババしたかどうか
すぐに判明することなのに、陰でこちょこちょ話していている。
自分が流した噂や憶測に本人たちが右往左往するようなところもあり、
「なにやってんの」と思う反面、世間ってこういうもんだなと、
感じる部分もある。

東京で一人暮らしなどしていると、
こうした「世間のわずらわしさ」というものは多少薄らぐものの、
田舎に帰った時は、そこら中で目にする光景だ。

そんな中、この映画に登場する子供たちはというと、
世間体なんかにこだわらないものだから、「おなら遊び」に興じている。
「おなら遊び」とは、額を指で押されたらオナラをするというもので、
がんばってオナラをしようとしたら別のものが出てしまったという
子供もいたりして、大変危険なのだ。

また「おなら遊び」を子供たちに流行らせた張本人の大人は、
オナラで台所にいる奥さんを呼んだり、
体操の最中にまるで呼子でも吹くようにリズムを刻むこともできる。
まさにオナラマスターだ。

そして子供たちはこの大人のようにオナラを使いこなしたいと、
日々、オナラの練習に励み、オナラマスターがオナラをするためには、
軽石を削って食べたほうがいいと言ったせいで、
子供たちは親に隠れて、軽石を食べているのだ。

まさにオナラマスターは最低な大人である。

でも、そんなことは作品のテーマではない。
テーマが浮かび上がるのは、小さな兄弟がテレビを買ってもらうため、
「だれとも口をきかない」という作戦に出たことにある。

「テレビ買って、買って」と駄々をこねる兄弟に、
父親が「お前たちは女の腐ったのみたいに口数が多すぎる。
男なら黙っていろ」と現代なら女性蔑視で反撃されそうなことを
子供たちにビシッと言ったわけである。

それで子供たちは家だけでもなく学校でもしゃべらなくなった。

まったくしゃべらないと、不便であり、
周りの人間も「なんでしゃべらなくなったのか?」と
心配や猜疑心に振り回される。

子供たちも子供たちで「給食費ください」と伝えるために
全くしゃべらず、ジェスチャーで伝えようとするものだから、
結局、「学校が火事になって火を消した消防士さんにお礼をした」という
わけのわからない解釈をされ、給食費をもらえないでいるのだ。

しゃべることができたら1分もかからずに終わってしまうのにね。

「そのくせ、大事なことは言えない」というようなセリフがあって、
佐田啓二(中井貴一のお父さん)と久我美子が好き合っているのに、
どちらからも「大事なこと」はなかなか言えなくて、
このもどかしさがまた、なかなか良い。

小津安二郎は「随筆」を書くように映画を作りたいと語っていたようで、
ひとつひとつのシーンがとても味わいがあり、
ワンシーンだけで僕はいろいろと自分の感想を語りたくなる。

この映画についてはもっともっと書きたいこともあるのだけれど、
「大事なこと」は長々と語ったとしても、
語りきれるものではない。
ましてや相手に伝わるとは限らないのだ。

そんなわけで僕の一番好きな映画です。

拍手[1回]