過去のない男
公開 2003年3月15日(日本)
監督 アキ・カウリスマキ
脚本 アキ・カウリスマキ
出演者 カティ・オウティネン、マルック・ペルトラ


【鑑賞後】評価:★★★★★(映画百選)
引越しをする前に会いたい人がいる。
それは群馬に住んでいる僕の大切な友人だ。
進学のため、誰も知らない東京へ出てきたとき、
同級生の彼が僕の面倒を見てくれた。
お金の使い方が下手で仕送りの一週間前にお金を使い果たしたとき、
彼は自分のバイト代を使って僕に焼肉をおごってくれ、お金を貸してくれたのだ。
彼は何年も東京で浪人をしていて、一人暮らしに慣れており、
年上だったこともあって頼もしかった。
だから最後に挨拶に行きたいというメールをして、
彼からの着信履歴があったから夜中に電話した。
恋愛においても彼は経験豊富で僕の先生のようなところがあったから、
学生時代に限らず、いろいろとアドバイスをもらったのだが、
今回も田舎へ帰るにあたって、僕の中のモヤモヤを解消するために相談したのだ。
僕「どうしても付き合っていた女性の現状を知りたいんです。メールしてもいいでしょうか?」
師匠「は?別れた女にいまさらメールしてどうするんだよ」
僕「なんというか、4年も付き合っていたのに何も言わずに帰るのはちょっと。
挨拶メールみたいなものを・・・」
師匠「向こうは向こうでよろしくやってるよ。余計なやつが出てっちゃ駄目だろ」
僕「それが・・・、向こうから直接メールとかは無いんですけど、
知り合い伝いに『心配している』とか、『応援している』とか聞かされて・・・」
師匠「ほっとけよ」
僕「それが、僕の家の近くまで来たみたいなんですよね」
師匠「は?なにしに?」
僕「わかりません・・・ 僕は会ってませんから。でも・・・」
師匠「なに?」
僕「赤ちゃんを抱いていたみたいです。僕のアパートの部屋を見てたみたいです」
師匠「お、お前」
僕「ち、違います!僕の子供ではないです!」
師匠「まあ、彼女にだって情があるさ。長年付き合ったんだからな。
このあと一生会えなくなるかもしれないからひと目だけ見たいとか、
そういう感情はあるんじゃないのか」
僕「じゃ、メールしていいですか?」
師匠「しなくていいよ」
僕「じゃ、しますね」
師匠「人の話、聞けよ。もし向こうがシングルマザーとかになっていたとして、
お前はなにかするつもりなのか?」
僕「い、いえ・・・ もう終わってますから。でも明らかに会いにきてるじゃないですか?」
師匠「バカ、寄りを戻すつもりもないのにいちいち連絡取るな」
僕「向こうが悪いんですよ、僕の視界にチラつくから」
師匠「ほっとけよ!お前はほんとに男にありがちなバカの典型だな。
別れた女の心配なんてするだけ無駄だ」
僕「はい、そう思います・・・ でも、僕みたいなバカでも先輩に会いに行ってもいいですか?」
師匠「ん?あ、いいよ。でも、忙しいからあまりこっちきても相手できないぞ」
僕「ありがとうございます!」
そんなわけで翌日、僕は彼女にメールを送ったのだが、
「あて先を確認してください」とエラー表示が出た・・・
は・・・? これはメール受信拒否ではないか!?
アッチョンブリケ!
散々こちらの視界にチラついておいて、
いざこちらが連絡を取ろうとすると、拒否かよ、おい!
別れる前に彼女のこういう性格が嫌いで冷めてしまった自分を再確認した。
なんというか、自分のやりたいことはやるけど、
こっちのやりたいことには興味が無いというか、
相手の気持ちを察して行動することができない人間の典型というか、
あらためてガッカリしたのだ。
でも、受信拒否をするということは、
彼女は彼女で、過去に付き合っていた男が出てきてほしく無い生活を送っているということだ。
つまり幸せにやっているのだ。
それがわかれば、僕は彼女に対して知りたいことはもう無い。
そう考えることができて、彼女にもらったマフラーも
一緒に撮った写真も何の気兼ねもなく、捨てることができた。
(詳しくは二日前の記事をお読みください)
ただ、もうこちらの視界にチラつくのはやめて欲しいと思う。
確かに付き合っていた女性の現状を知りたいというのは僕の本心だけど、
その女性の目の前に登場したいと思ったことはない。
僕はちゃんと「興信所を使って」と二日前のブログに書いた。
つまり彼女のことを僕が調べているということを知られたくはないのだ。
知られることで僕が彼女に気持ち悪がられるのはかまわないのだが、
彼女の日常に面倒くさい影響を与えたくないのだ。
そんな風に考えられる僕のほうがよっぽど立派だと思う。
彼女は僕に面倒くさい影響を与えた。
映画の紹介をすっかり忘れていたジャマイカ!
僕はいま生きている映画監督で誰が一番好きかと聞かれたら、
「アキ・カウリスマキ」と答える。
ちょっと言いにくい名前だけど彼の作品が好きだ。
登場人物はどこか無愛想なんだけど愛嬌がある。
そして作品のテーマも面白いのだ。
『過去のない男』では暴漢に襲われて記憶喪失になってしまった男が、
恋をしてしまうお話だ。
自分の過去がなんなのか、名前がなんなのかもわからない。
結婚しているのかもわからないのだけど、
目の前にいる女性に恋をしてしまうのだ。
彼女のために就職しようとするのだけれど、
自分の名前もわからないものだから役所で失業保険受給の手続きもできない。
そして・・・
アキ・カウリスマキ監督の作品は当たりはずれがあるのだけれど、
この監督のユーモアと人間に対する優しいまなざしが僕は好きだ。
小津安二郎監督を敬愛しているだけあって僕と気が合いそうな気がする。
「映画百選」に入れたい『コンタクト・キラー』という作品も撮っている。
この映画は、
人生に失望した男が自殺しようとするのだが、
自殺できずに殺し屋に自分を殺すよう依頼するのだ。
しかし、依頼した後すぐに花売り?の女性に一目ぼれしてしまって死にたくなくなる。
男は殺しの依頼を解約しようとするのだが、
殺し屋がいるはずのバーが取り壊されていて、解約を伝えることができないという話だ。
『過去のない男』に戻るが、この映画は、
「いままで歩んできた詰まらない人生に失望するな。前を向いて歩け!」
という監督のメッセージが込められている。
長年生きてくれば、人間には垢と過去が堆積していく。
しかし、過去に縛られていたのでは前に進むことはできないのだ。
過去ばかり見て生きていくことはできない。
ちなみに、僕の師匠は過去にはまったくこだわらないどころか、
未来に対してもなんの期待もしておらず、
僕から見たら人生に「絶望」しているようにしか見えないから、
「過去も未来もない男」と心の中で思っているのだが、
本人には言えない。
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