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お早よう

お早よう
1959.05.12公開
監督 小津安二郎
脚本 野田高梧、小津安二郎
出演 佐田啓二、久我美子、笠智衆


評価:☆☆☆☆☆(映画百選)

オナラは健康の証である。

世界で一番好きな映画監督は誰かと聞かれたら、
僕は間違いなく「小津安二郎」と答える。

小津の映画を初めて見たのは映画が好きになり始めた高校時代だ。
小津の代表作『東京物語』を近所のツタヤで借りて来て見た。
あまりにも何も起きない映画で、退屈だったのだけど、
映画を見終わった後の余韻がいつまでも続いて、
この映画のどこに余韻の原因があるのか、
いろいろ考えさせられたのを覚えている。

高校時代に一番好きだった映画監督北野武は、
「小津の映画は、早送りで見た」と何かの雑誌で語っており、
やっぱり、みんな展開が遅い映画だと思っているんだと納得してしまった。

パンやズームもほとんど無く、紙芝居のように、
セリフをしゃべる登場人物を交互に固定カメラで撮っているだけだと。

小津が意図的にパンやズームを使わなくなったことや、
演出は視線にいたるまで細かく指示し、
セットの小道具にも本物を求め、こだわったことはあとから知る。

世界中の映画監督が「好きだ」という小津安二郎だが、
黒澤明の「いかにも映画」と言った作品に比べるととても地味で、
現代の日本では名前さえ知らない人のほうが多いように思う。

まあ、それはいいとして、『お早よう』である。

僕はこの映画が小津の作品の中で最高傑作だと思っているんだが、
Wikiで調べてみても、この作品には解説がなく、
あまり人気がないみたいだ。

『東京物語』や『秋刀魚の味』が好きな人にとっては、
作品のテーマが薄っぺらく感じられるのだろうか?

小津自身は、この作品のテーマを「あいさつの大切さ」と語っていて、
「こんにちは」とか「いいお天気ですね」なんて一見意味のない挨拶も
もし、なくなってしまえば、世の中は味気のないものになってしまうよ、
と言っている作品である。

しかし、作品のテーマが浮かび上がるのが映画の中盤くらいで、
前半は「世間はうるさい」といった描写が中心になる。

「婦人会の会費がまだ会長さんに払われてないんですって」
「あら、私たしかに払ったのにどういうことでしょう」
「そういえば、組長さんのおうち、最近、洗濯機買ったでしょ」
「ああ、そういえばそうね。でも、それは・・・」
「わかりませんよぉ、イヒヒ」
なんて、組長本人に聞けば、会費を猫ババしたかどうか
すぐに判明することなのに、陰でこちょこちょ話していている。
自分が流した噂や憶測に本人たちが右往左往するようなところもあり、
「なにやってんの」と思う反面、世間ってこういうもんだなと、
感じる部分もある。

東京で一人暮らしなどしていると、
こうした「世間のわずらわしさ」というものは多少薄らぐものの、
田舎に帰った時は、そこら中で目にする光景だ。

そんな中、この映画に登場する子供たちはというと、
世間体なんかにこだわらないものだから、「おなら遊び」に興じている。
「おなら遊び」とは、額を指で押されたらオナラをするというもので、
がんばってオナラをしようとしたら別のものが出てしまったという
子供もいたりして、大変危険なのだ。

また「おなら遊び」を子供たちに流行らせた張本人の大人は、
オナラで台所にいる奥さんを呼んだり、
体操の最中にまるで呼子でも吹くようにリズムを刻むこともできる。
まさにオナラマスターだ。

そして子供たちはこの大人のようにオナラを使いこなしたいと、
日々、オナラの練習に励み、オナラマスターがオナラをするためには、
軽石を削って食べたほうがいいと言ったせいで、
子供たちは親に隠れて、軽石を食べているのだ。

まさにオナラマスターは最低な大人である。

でも、そんなことは作品のテーマではない。
テーマが浮かび上がるのは、小さな兄弟がテレビを買ってもらうため、
「だれとも口をきかない」という作戦に出たことにある。

「テレビ買って、買って」と駄々をこねる兄弟に、
父親が「お前たちは女の腐ったのみたいに口数が多すぎる。
男なら黙っていろ」と現代なら女性蔑視で反撃されそうなことを
子供たちにビシッと言ったわけである。

それで子供たちは家だけでもなく学校でもしゃべらなくなった。

まったくしゃべらないと、不便であり、
周りの人間も「なんでしゃべらなくなったのか?」と
心配や猜疑心に振り回される。

子供たちも子供たちで「給食費ください」と伝えるために
全くしゃべらず、ジェスチャーで伝えようとするものだから、
結局、「学校が火事になって火を消した消防士さんにお礼をした」という
わけのわからない解釈をされ、給食費をもらえないでいるのだ。

しゃべることができたら1分もかからずに終わってしまうのにね。

「そのくせ、大事なことは言えない」というようなセリフがあって、
佐田啓二(中井貴一のお父さん)と久我美子が好き合っているのに、
どちらからも「大事なこと」はなかなか言えなくて、
このもどかしさがまた、なかなか良い。

小津安二郎は「随筆」を書くように映画を作りたいと語っていたようで、
ひとつひとつのシーンがとても味わいがあり、
ワンシーンだけで僕はいろいろと自分の感想を語りたくなる。

この映画についてはもっともっと書きたいこともあるのだけれど、
「大事なこと」は長々と語ったとしても、
語りきれるものではない。
ましてや相手に伝わるとは限らないのだ。

そんなわけで僕の一番好きな映画です。

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